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早良区内野の生姜農家「山の農園」

早良区内野の生姜農家
「山の農園」

山の農園 米澤 竜一さん

手間ひまかかる土地で始めた、きまじめな生姜づくり

福岡県と佐賀県を分かつ脊振山系。その福岡側のふもとに広がるのが、早良区の内野地区です。ここは、山系を伝わる豊かな水脈と肥沃な大地がもたらす、良質なお米の産地。しかし、山あいの中山間地のため広い作付面積が確保できず、高齢化が進んで生産規模は縮小しています。そんな中、農業経験のまったくないひとりの青年が、この地の畑を借りまして、生姜づくりを始めました。地元の人に止めておけと言われながらも実直な生姜づくりを続けて7年、少しずつ生産量と販路を拡大してきています。まったく"畑違い"の仕事をしていた彼が、いちから始めた生姜づくりの奮闘を、追いました。

激務の出版業から農家に転身

生姜作りを始めたきっかけを教えてください。なんでも、以前は全然違うお仕事をしてらしたとか?

ええ、僕は26才の頃にコピーライターの先輩たちと4人で会社を立ち上げて、雑誌や広告の編集や記事制作をしていました。設立から10年以上、がむしゃらに仕事をしていたんですが、ある時、腸閉塞で入院することになり、会社を20日間休みまして。それまで、そんな長期の休みを取ったことがなかったので、張りつめた糸がぷつっと切れたようになって、ふと思ったんです。「俺、何しよっちゃろ。こげんことやるために生まれて来たんかなぁ?」と。病床で痛みと苦しみにのたうち回り、このまま死んだら後悔しないかを自分に問いかけた時に、このままではいけないと思って、独立を決意しました。そして、古本屋で偶然に「農で起業する! 脱サラ農業のススメ」という本を手に取り、「これだ!」と思って始めて、いまに至っています。毎日やりたいことができて、とても充実していますし、幸せですね。

それは、壮絶ですね! 農業には昔から興味があったんですか?

いえ、まったく(笑)。ただ、現状を変えなければ、自分はあと数年でダメになるだろうという、切羽詰まったものがありました。決めてからの行動は、早かったです。1年間かけて会社を辞める準備を進めながら、新規就農者として農業を始めて成功している永香農園の片岡さんのところに弟子入りし、みっちりと農業の基礎を学びました。そして、農地を探していた時に、いまの早良区内野の農地を見つけたんです。

米澤さんの畑は、山の斜面を切り開いた段々畑のうち、一番上の部分。面積は3反(約3,000m2)。農地としては条件が悪い面もありますが、見晴らしは最高!

農地はどうやって見つけたんですか?

人の紹介ですね。近くに温泉があって、会社勤めをしていた頃は週末によく来て、景色を眺めていたんですよ。だから、いいところだなという実感はあって。それでたまたま、内野の農地が空いたので、すぐ借りることにして。

運がいいですね。

ええ。ただ、新規就農者が借りられる農地というのは限られていて、僕が借りた場所も、段々畑の一番上に位置する斜面です。上側は耕作には適さない土地で、広く平らな土地よりも効率が悪く、日照時間も短いので、作物の成長も遅くなります。それに、中山間地は獣害もあります。イノシシが苗をなぎ倒したり、アナグマが土をほじくり返してしまったり。だから、ワイヤーメッシュを張り巡らせるといった対策が必要になってきます。

えー、それは大変ですね!

その分、メリットもありますよ。まず、山の一番水をそのまま使えます。これは、成分の90%以上が水である生姜にとっては、とても大切なこと。水が媒介する病気のリスクも少なくなります。それから、昼夜の寒暖差が大きいので、作物がおいしく育ちます。効率は悪いけれども、手間ひまをかければおいしいものが作れる土地は、僕のスタイルに合っていましたね。

脊振山系の一番水を、ホースで引いて使っています。高低差があるため、水圧を利用してポンプいらずで撒くことができるとか。

まったく経験がない状態で農業を始めたんですよね? 最初はご苦労されました?

それはもちろん。いまでも試行錯誤の連続です。永香農園で1年間習い、その後も熊本の生姜農家さんで勉強させてもらいましたが、それでも自分で育てるのは初めてでしたから。農業って、”一人で何でもせんといかん”のですよね。知識はあっても、実際にやってみるといろんな手落ちがあって、うまくいかない。それを繰り返して学んでいくしかないんです。例えば、今年の冬は雪でビニールハウスが潰れてしまい、想定外の損害が出ました。7年続けてきても、毎年何かしら初めてのことが起こります。自然が相手だから、腹も立ちませんけどね。農業の場合は1年で1サイクルですから、身体が元気な状態であと何回作れるんだろう。そう考えると、1回ずつが真剣になります。この土地の気候に詳しい地元の人たちにも、いつもアドバイスをもらってますよ。

地元の人との交流もあるんですね。

ええ。元JAの職員だった塩崎さんには、とてもお世話になってますね。内野の人はみんな開放的で、僕のようなよそ者が行っても受け入れてくれ、とてもやりやすいんですよ。特に塩崎さんの存在は大きいです。相談に乗ってもらったり、トラクターなど機器を借りたり、いまでもお世話になりっぱなしですね。いつか僕も、ギブアンドテイクの精神で、内野の米作りのブランディングをするお手伝いなど、感謝の気持ちを還元できたらいいなと思っています。

生姜作りのことから雑談まで、何でも気さくに話せる、元JAの塩崎さん(左)。猪狩りの名人でもあります。「最初は生姜づくりなんてやめとけって言っとったとですよ。でも今では立派んなって」。米澤さんを見る目はまるで息子のよう。

いろんな作物がある中で、なぜ生姜を選んだんですか?

1年目にお試しでいろいろと作ってみた中で、割と上手にできて、自分に向いていると思ったからですね。それに、生姜は健康食品としても注目されるようになり、加工品も作りやすいので、商品展開も考えられます。毎年、生姜を使った新商品を1品ずつ、増やしていく計画です。中でも生姜ジャムは人気が定着してきたので、今後は増産していく予定です。

「koto koto kitchen」ブランドで出している生姜ジャムと、生姜原料を卸して外注生産しているしょうがあめ。生姜ジャムは、奥様が月に平均100本を手作りしています。SNSを活用してプロモーションし、じわじわと人気上昇中。そんな奥様の前の職業は、なんとスタイリストだとか。

生産や販売に、どんな工夫をしていますか。

まずは、安心して食べられる物作りですね。始めた当初から農薬は必要最低限に抑えてますし、自分の生産技術が上がっていくにつれて、使う量もより少なくて済むようになっています。また、牛糞などではなく、人間でも食べられる大豆や米、麦など穀物を使った有機肥料を使って、土作りをしています。販売の工夫という点では、かつての防空壕を利用して地下貯蔵庫を作り、シーズンオフの冬から春にかけても安定して出荷できるようにしています。

農業を初めて現在7年目ですが、収支の方はどうですか?

最初は技術がなくて失敗が多いし、設備の初期投資もかかるので、会社の退職金と貯金は最初の数年ですぐになくなってしまいました。でも、最近はようやく、効率的な生産や販売体制ができてきて、継続できる程度には、売上も立つようになりました。2012年からは、農水省が青年就農給付金という制度ができ、新規就農者には年間150万円の給付金が出るようになったので、僕が始めた頃より新規就農はしやすくなっていると思いますよ。ただ、給付金に頼りすぎると、自立する仕組みを確立できないので、そこは気をつけないといけないですね。

米澤さんの生姜は、みずみずしく、さわやかな辛みが特徴。「うちの生姜は、生きた状態でお店に並んでますから。地中に植えたらまた根が生えてくるくらい、新鮮です」と米澤さん。

なるほど。今後の目標はありますか?

まずは、農地を6反まで拡大して、生産量を増やすことです。それから、妻の尽力のおかげで加工品も人気が出てきたので、専用の加工所を作り、生産体制を確立したいですね。加工所と販売所を併設して、自前で販売チャネルを持つように計画しています。用地の目星もついたので、早々にも実現できるかもしれません。

それはいいですね!最後に、この地域が今後目指すべき姿について、米澤さんの意見を聞かせてください。

内野という土地は、中山間地のため作物づくりには向いていないと思われがちですが、手間をかけた少量生産品であれば、もともとの土や水の持っている質の良さで、とてもおいしいものが作れるんです。そして、福岡市内まで近いというメリットもあります。最近は都会に限らずとも、いいものは多少値段が高くても買う人が増えていますよね。だから、きちんといいものを作って、それが支持されて、生産者も増え、地域が活性化するというサイクルを作っていきたいですね。僕は、まだまだ成功事例とは言えない規模ですので、これをきちんと成功させて、次世代にも繋げていければと思っています。

kotokoto kitchen by 山の農園 ブログ

http://koto2yama.exblog.jp/
※「山の農園」米澤さんの生姜は、現在、JA福岡市直営の「博多じょうもんさん 入部市場」、ならびにディスカウントストア「ルミエール◯◯店」等で購入できます。

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